横浜家庭裁判所 昭和39年(少)2757号
主文
少年を中等少年院に送致する。
理由
(非行事実)
少年はA(少年)とともに、昭和三九年四月○○日午後二時三〇分頃、東京都新宿区○○三丁目○番地先路上において、折柄同所を○○(当一六年)と通行中の○川○江(当一六年)を見かけるや、同女を強いて姦淫しようと謀り、S・Sが右○本○雄を虚言を用い且、半ば脅迫的言辞を弄して、同所附近の喫茶店へ連れこんだうえ放置し、その隙にAと共に右○川○江を「レコード会社に就職を世話してやる」等の甘言を用いてタクシーに乗車させ、同日午後三時頃、Aの自宅である豊島区○○七丁目○○○○番地○○荘二階四畳半の間に連れこみ、部屋に施錠したうえ、同女に対し、
「おれ達はやくざだ、あまく見るな、就職を世話すると言つたのは嘘だ。おれ達にやらせないとやくざに売り払つてやるぞ。いやだと言つたらお前の彼氏をやくざにひどいめにあわせてやり、お前の着物は切り破つてやる。」
等と申し向けたうえ、同女を押し倒す等の暴行を加えてその反抗を抑圧し、同日午後五時頃までの間にわたり、同所において交互に同女を強いて姦淫し、その際右行為により、外陰部擦過傷による加療約三日間の傷害を与えたものである。
(法令の適用)
強姦致傷 刑法第一八一条 第一七七条 第六〇条
(保護処分に付する理由)
(1) 本件はその態様において何らの情状酌量の余地なき悪質極まる性犯罪である。その犯行の計画性、着手方法、実行行為、何れをみてももはや少年保護の対象とはなり得ないのではないかとの疑いをさえ起させるものである。
(2) ところで、少年は現在大学の一年在学中であり、過去において特に留意すべき非行を見出し得ず、又家庭環境も良好のようであり、一見問題はないようにみえる。しかし、一歩足を踏みいれて考察してみるに、保護者の少年に対する教育方針に重大な欠陥があるやに窮われるのである。すなわち、保護者は、子供に対し、一切干渉せず、自由放任にしておくことが子供を自由独立にして、責任観ある人間に成長させる最良の道であるという驚くべき安易な教育観を抱いているのである。
(3) 一方少年の側において、少年は過去約一年間に五、六回異性との肉体交渉を持つており、何れもその場限りの享楽的行為にすぎないものであり、女性に対する観方はかなり唯物的、すなわち、女性を一人格としてでなく、快楽の対象としてしか認めない傾向に進みつつある。
(4) このような背景をもつ少年が女性との性的欲求を暴力を用いてでも、実現しようと企図する過程は、その間に、若干の不良交友、社会に充満する性的観念の弛緩、強烈な刺戟、性非行に対する国家権力発動の微弱への錯覚(少年の当裁判所に対する供述には、自己の非行の反社会性をどの程度認識しているか甚だ疑わしい)等の事実が介在するだけで、十分発展的たり得るであろう。
(5) 保護者はこのような事態について、なお、被害者に対し、五、〇〇〇円程度の弁償をすれば、責は免れるとの考えを抱いておるようであるが、年齢僅か一六年にすぎぬ被害者である少女が、これから生涯負うであろう苦悩を思いあわせるとき、誰か、かかる思いあがりに憤りを感じない者がいるであろうか。
(6) 鑑別所および当裁判所調査官の処遇意見は何れも在宅における保護観察である。しかし両意見は本件事案のもつ社会的意義に対する考慮を殆ど欠いている。裁判所は少年保護事件と雖も、事案の性質についての配慮を怠ることは許されない。
(7) 要するに、本件はあらゆる意味において現下わが国少年非行問題の最も憂うべき状況の一つの露呈した不幸なる事件の一つであり、当裁判所は山積した未処理問題をかかえている各非行対策機関の何れを選択すべきかに迷うものであるが、非行歴のない点を考慮して刑事罰を加えることは避け、少年法第二四条第一項第三号を適用して、主文のとおり保護処分決定をすることとした。